鍼灸治療を受けたことがない方にとって「鍼(はり、針)は痛い?」という心配は大きいようです。

基本的に、鍼治療はほとんど痛みを感じることがなく治療を受けられるとお考えください。「痛みが心配で治療を受けたくない」と考えるのであれば、それは非常に勿体無いことです。ただし「100%痛くない」と言うのは正確ではなく(「ほら、やっぱり痛いんでしょ?」とか言わずに最後まで読んで下さい。)、時々チクっとすることもあります。

このページでは、鍼治療には「チクっ」という痛みを最小限に抑える工夫があることや、怖がるほどの痛みではないことを理解していただくために、色々な方面からご説明致します。

【目次】

1. 皮膚の痛みセンサー
2. 管鍼法~針を刺す痛みの軽減に最も貢献した方法~
3. 針の先端に施された工夫
4. 針の太さ
5.「痛み」と「響き」
6.「治療を受けることをためらうような痛みではない」

 

1.皮膚の痛みセンサー

皮膚で痛みを感じるセンサーは皮膚の表層にあり「自由神経終末」といいます。

皮膚は大まかには2層に分かれており、表面の「表皮」(約0.1mm)とその下の「真皮」(約2mm)からなります。

痛みセンサーである自由神経終末は、表皮の最下部あたりにあります。表皮自体がそもそも0.1mm程度の厚みなので、表皮の最下部といっても深さ0.1mm以内のとても浅いところです。

図 皮膚の構造

社団法人東洋療法学校協会編(2006)『解剖学 第2版』医歯薬出版 p.27

皮膚が強い力で圧をかけられたり引っ張られたりすると、自由神経終末が刺激を感知して感覚神経を通じて脳に送ります。

鋭いものを皮膚に当てると痛みが生じますが、このとき、皮膚に加わった力を自由神経終末が感知して脳へ痛みの情報が届く、ということが起こっているわけです。

鍼治療の中で痛みを感じるのは、ほとんどの場合は針を皮膚に刺す瞬間です。

自由神経終末が針の刺激を感知すると痛みを感じますので、鍼治療では、自由神経終末に刺激を感知されない工夫が色々となされています。

2.管鍼法~針を刺す痛みの軽減に最も貢献した方法~

針を皮膚に刺すときに、半透明の管に入った鍼の頭をトントンと叩くのをTV等で見たことのある人もいらっしゃると思います。針を管に入れてトントンと叩く方法を「管鍼法」といいます。

鍼灸=メイドイン・チャイナは常識ですが、管鍼法はメイドインジャパン、江戸時代の日本で開発されました。

針を皮膚に刺す方法はいくつかあり、どれも訓練により痛みを感じさせず刺すことは可能ですが、管鍼法の登場によって「より簡単に」「痛みなく」「手早く」針を刺せるようになったと言っていいでしょう。

管鍼法で用いる鍼管(「しんかん」、半透明の管)は鍼よりも数ミリ短く作られています。

鍼管に針を入れて皮膚の上に立てると、針の頭が数ミリだけ管から飛び出た状態になります。頭の飛び出た針をトントンと数回叩くと、数ミリ分だけ針が皮膚に刺さります。

写真 針と鍼管

トントンと叩いた針は素早く皮膚に刺さるので、一瞬で痛みセンサー(自由神経終末)の深さを通過します。

自由神経終末が反応しないので、針が刺さったときに痛みを感じることはありません。

刺さった後は、針を深く進めても自由神経終末は深い位置にはないので、痛みを感じません。

 

3.針の先端に施された工夫

鍼の先端の形にも、痛みを軽減する工夫があります。

先端の形は、スリオロシ形、卵型、ノゲ形、柳葉形など様々な形がありましたが、現在は多くの針が松葉形に落ち着いています。

松葉形は針の「鋭さ」と「先端の強度」の2つを兼ね備えた形状です。

針の先端形状

尾崎昭弘(2005)『図解 鍼灸臨床手技マニュアル』医歯薬出版 p.23

日本で最も大きな鍼灸用の針メーカーであるセイリン㈱では、先端にやや丸みをつける精密加工を施して、より痛みの少ない針を作っています。

別分野で、糖尿病の血糖値測定用の自己採血の針では、蚊の吸口をモデルにした痛みの出ない注射針というのも聞いたことがあります。

今後、鍼灸用の針も更に痛みが出にくい形状に進化するかもしれません。

また、金属面の摩擦抵抗を減らすためにシリコンが塗布されています。

注射針にも刺入痛を軽減させる目的で、針の切断面にもシリコンが塗布されています。

過去に、注射針のシリコンについて有害性が報道されましたが、現在使用されているシリコンは安全性が確認されているものです。

もちろん鍼治療用の針でも注射針と同じ安全なものが用いられています。

4.針の太さ

韓国の歴史ドラマの中で、縫い針ほどの太い針で治療する様子が描かれています。

現代の日本で使う鍼灸用の針はずっと細いのでご安心下さい。

日本で今使われている鍼治療の針は、直径が最小で0.10mm、太いものでも最大0.30mmくらいです。

細い針ほど痛みが生じにくく、太いものは痛みが出やすい傾向がありますが、よく使用される針は、直径0.16mmから0.20mmくらいの比較的細いものです。

体の部位によって痛みの感受性が異なり、顔面や手足の先端に近ければ痛みに敏感ですので、部位に応じた細い針を選択します。

針の選択を間違えなければ、鍼の太さのせいで痛みを感じることはありません。

5.「痛み」と「響き」

鍼灸治療で患者さんが「痛い」と言うケースの一つが最初の「チク」でした。これを防ぐための様々な工夫はご理解いただけたかと思います。

実は、患者さんが「痛い」と言うもう一つのパターンがあります。それは「響き」という感覚です。

響きは「チク」とは異なり「ズーン」などと表現するような感覚で、チクっという痛みと比べてゆっくりと重いような感じです。

鍼治療独特の感覚で、日常生活の他の感覚では表現ができないものです。

響きは、上記の痛みセンサー「自由神経終末」ではなく、「ポリモーダル受容器」というセンサーが関係しています。

ポリモーダル受容器の反応により、周囲の血管が拡張して血流が促進されるなど、体の好反応が起こることも分かっています。

「ズーン」という刺激を鍼治療の良い効果を引き出す方法として、敢えて多用する治療法もあります。

響きに関しては、何度か経験すると患者さんも慣れてしまい、「痛い」というよりも「気持ちいい」と感じる方もいらっしゃいます。

しかし、何度経験しても「ズーン」が苦手という方もおり、そういう場合は「ズーンという感じは苦手です」ときちんとお伝え下さい。

大抵の鍼灸師はズーンという感じを出さずに調節しながら治療できます。

治療する鍼灸師によって、または症状や疾患によっては、ズーンという感じを出すことが症状改善に重要なケースもありますが、不快感を感じながらの治療は効果が下がってしまいますので、苦手な場合はきちんと伝えることが大事です。

6.「治療を受けることをためらうような痛みではない」

ご説明したように、鍼治療は痛みを軽減する工夫がいくつもあります。

もし、治療中に針で痛みを感じた場合は「そこ痛いです」ときちんと伝えてください。

痛い場所は刺し直します。通常の鍼治療は痛みを我慢する治療ではありません。

治療する側の立場で見ると、実際は100人に1人くらいの割合で痛みに敏感な方がいらっしゃいます。

何度か治療をしていて通常よりも頻繁に「痛い」と言うのを聞けば「皮膚が敏感な方」と判断し、細い針に替える等痛みを感じないような対策をします。

治療を初めて受けた方はほとんどが

「治療を受けることをためらうような痛みではない」

「これだったらもっと早く治療を受けに来ておけばよかった」

という旨の感想をおっしゃっていますので、あまり心配することはないでしょう。