鍼灸治療について「鍼灸に危険は無いのか?」という不安を持っている方もいらっしゃるかと思います。

その不安を解消できるように「鍼灸で使用する道具の安全性」と「実際の鍼灸治療における有害事象の発生件数」の2項目に沿って、鍼灸治療の安全性を解説します。

【目次】

1. 鍼灸で使用する道具の安全性

1-1. 針の安全性

1-2. 針以外の器具の安全性

2. 実際の鍼灸治療における有害事象の発生件数

2-1. 鍼灸治療による副作用の発生率は0.11%(ドイツで行った患者数50万人に対する計400万回以上の大規模調査において)

2-2. 個々の副作用について解説

3. まとめ

 

 

1.使用する道具の安全性

1-1.針の安全性

鍼灸治療で使う針は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(旧 薬事法)において「医療機器」として定められています。

「設計、リスクマネジメント、性能、機能、製品の寿命、輸送および保管、医療機器の有効性、化学的特性、微生物汚染等の防止、製造または使用環境に対する配慮、製造者・製造販売業者が提供する情報、性能評価」の各項目において要件が定められています。

JISや各省令・通知等で定められた種々の基準に適合したものが、製品として施術者のもとに届き、安全な道具が治療で使われるような仕組みができています。鍼灸治療用の針そのものに関して、十分な安全性が確保されていると言えます。

はりの製造フローチャート

尾崎昭弘(2005)『図解 鍼灸臨床手技マニュアル』 医歯薬出版

はりの製造工程

尾崎昭弘(2005)『図解 鍼灸臨床手技マニュアル』医歯薬出版

1-2.針以外の器具の衛生面

針以外にも取り扱いを誤ると感染の原因になり得る器具もあります。

代表的なものはシャーレです。針をパッケージから出した時や、針を抜いた時に一時的に針を置いて使うものです。

金属シャーレであれば患者毎に滅菌済みのものに交換する、ディスポーザブル(使い捨て)タイプであれば患者毎に新しく使用します。

 

2.実際の鍼灸治療においてどのくらいの頻度で有害事象が起こっているのか?

鍼灸治療の安全性・危険性を把握するには「実際の鍼灸治療においてどのくらいの頻度で有害事象が起こっているのか?」を知ることが、最も的確です。

以下に示すのはドイツで行われた約50万人への治療を対象とした調査です。鍼灸に関する有害事象の調査では最も信頼性が高いものとみなされています。

2-1.鍼灸治療による副作用の発生率は0.11%(ドイツで行った患者数50万人に対する計400万回以上の大規模調査において)

ドイツで2001年から2003年の約2年間で行われた、患者約50万人に対して総治療回数400万回以上が対象となった大規模な調査です。

慢性疼痛への鍼治療を受けた患者50万3397名、総治療回数400万回以上

鍼灸との関連があり一定以上の重い有害事象が発生したケース6,140名について詳細な質問を実施

詳細な質問を行った6140名のうち、9.3%が副作用を経験したと報告(約570名、全体の0.11%)

副作用経験者(570名、全体の0.11%)のうち10.4%(60名未満、全体の0.01%程度)が「発生した副作用は特に気になるものではない」、65.1%(約370名、全体の0.07%程度)が「(副作用によって)若干わずらわされた」、14.5%(80数名、0.016%程度)が「(副作用によって)明らかに影響があった」

副作用の種類は、(多い順から抜粋)倦怠感116名、頭痛57名、疼痛57名、眩暈(めまい)45名

重大な副作用は、心血管系異常(失神など)6例、気胸3例、皮膚感染2例、重症喘息発作1例、うつ病悪化1例の合計13件。

調査の結論において、「鍼治療は安全で、重大な有害事象はまれである」とされた。

 

患者数約50万人と総治療回数400万回に対して、「副作用の発生率0.11%」と「重大な副作用13件」は非常に少ないと言えます。

これについて安全か危険かを感じるのは個人の尺度によりますが、調査結果では「鍼灸は安全で、重大な有害事象はまれ」と結論付けられております。

 

2-2.個々の副作用について解説

「副作用」の不安は、上記で記した頻度だけでなく「命の危険性はないか?」「後遺症を残さないか?」「その副作用に長期間悩まされるのでは?」という「重大性」だと思います。上のセクションでは説明が不足していたので、ここで補足します。

「倦怠感」

治療後の倦怠感は、高齢の方に多い傾向ですが、若い人にも少数ながら出る方がいます。鍼の本数や時間などの刺激量を調節することで予防はできますが、治療に必要な最小限の刺激量でも倦怠感を感じることがあるため、避けられない面もあります。ただし、治療継続の妨げになるほどの強い倦怠感を感じる方は非常にまれです。

倦怠感の頻度、倦怠感から生じる不利益と、治療効果を天秤にかけて、治療を受ける前から怖がる副作用ではないと考えています。

「頭痛」

鍼治療で起こる頭痛は「鍼治療の血管拡張作用により、頭部の血管が拡張して片頭痛と同様の状態になるもの」と考えられています。簡単に言うと「のぼせ」のような状態です。

対策は、施鍼部位が頭部近辺に多くなりすぎないようにすることや、手足の末梢を温めるなどいくつかあります。鍼灸治療ではルーティーンとして対策しています。

「疼痛」

疼痛とは痛みのことです。調査の中では「針の刺入時の痛み」や「治療後に痛みの症状が悪化した」という訴えを疼痛として集計していると思われます。

「針の刺入時の痛み」に関しては「鍼灸治療の針は痛くないの?」のページでご説明していますが、針を刺す瞬間チクっとすることがあるのみで、長時間残ることはありません。注射の痛みと比べれば何倍も弱いものです。

「治療後に痛みが悪化したという訴え」に関しては、関節痛や神経痛などで治療が終わって動き出したら痛いということがしばしばあります。治療時の長時間の同一姿勢に起因するもので、針を刺したからというものではありません。また、それによって病態が悪化するとか、治癒までが長引くということも無いと考えています(ほぼ検証が不可能なので断定せず「考えています」となりますが、治療経験をもとに述べました)。

「眩暈(めまい)」

鍼灸治療後に起こる眩暈は、ぐるぐる回る回転性ではなく、クラっとする立ちくらみのような症状のことと思われます。四肢末梢の血管拡張により一瞬の脳虚血が生じて起こることがあります。

坐位や立位で治療を行えば高率に発生しますが、通常は臥位で治療するので問題ありません。

症状によっては臥位が難しいこともあり、坐位で治療するケースもありますが、眩暈→転倒→怪我につながるので、注意に注意を重ねて治療しており、予防可能です。

「心血管系異常(失神など)」

医療に詳しくない一般の方の語彙では「心血管系異常」という文字を見ると「心筋梗塞?」「狭心症?」などと思い浮かべてしまうかもしれません。しかし、カッコで(失神など)と書いてあるので、失神以上の重篤なものは発生していないと考えていいでしょう。

失神が起こるのは上に書いためまいと同じ理由です。四肢末梢の血管拡張により一瞬の脳虚血により起こる可能性があります。めまいと同じように坐位の治療では厳重に注意しています。

「気胸」

気胸は、肺を包む胸膜を突き刺して起こるものです。針を胸膜に刺して気胸が起きれば、副作用というより医療事故と考えるべき重大なミスです。

胸郭(肺を取り囲む部位)では、針を指す深さを厳重に注意して、気胸が起こらないようにしています。むしろ、厳重に深さを注意する必要が無いほどに浅い深さしか刺さない、という鍼灸師が大半です。

また、「自然気胸」という針などの刺激がなくても自然に気胸がおこる病気があります。自然気胸の既往がある方を治療する際は、鍼治療後に自然気胸が発生すれば、安全に治療していてもそれを証明する方法がなく、疑われれば(たとえ安全に治療していても)高い確率で責任を問われます。よって、問診で「自然気胸」と聞けば、胸郭部には一切針を刺さない(浅い針でも刺さない)という鍼灸師もいます。

というように、気胸は常に念頭に置いて、治療の部位や針の深さを決めています。

「副作用」には「一定確率で偶発的に起きるネガティブな結果」という意味合いがありますが、気胸の場合は(自然気胸が治療後にたまたま発生したものを除いて)偶発性はほぼなく、安全な治療を行っていれば防げるものです。

「皮膚感染症」

皮膚感染症の可能性としては、他の患者さんから施術者やベッドなどを介して感染するというルートが考えられます。

患者さん毎に手洗いを徹底すれば施術者を介した感染は防げます。また、シーツ等の肌に触れるものを交換し、洗濯済みのきれいなものを使用することでベッドなどを介した感染も防げます。

皮膚感染についても、医療の基本である「手指の洗浄」と「清潔な環境の確保」というルーティンで予防できます。

「重症喘息発作」と「うつ病悪化」

これら2症状にかぎらず、症状・持病の悪化は可能性を完全に取り除くことは不可能です。ただし、400万回の治療で2件ですので「鍼治療で起こる可能性がある発作や悪化」と一般化できるものでは無いと思われます。

例えば、病院で薬を処方されて何らかの悪化があれば、薬を変えたり中止したりするのと同じように、鍼治療でそういう悪化があれば、治療中止も含めて対応を考えるのが当然です。

これら2症状のその後の経過は分かりませんが、1回の治療で長期に渡って後遺症を残したり、命に関わる状態に陥る危険性は非常に考えにくく、上記のように医療者として行うべき対応を取れば、何らかの症状悪化に関しても、治療を忌避する理由にするほどではない言えます。

3.まとめ

このページでは鍼灸治療の安全性について、「鍼灸治療で使う道具の安全性」と「実際に治療で起きている有害事象の頻度」の2つの観点からご説明しました。

「鍼灸治療で使う道具の安全性」に関しては、法律に則って品質が管理されており、安全な道具が鍼灸治療で使われていることがお分かりいただけたかと思います。

「実際に治療で起きている有害事象の頻度」では、海外の調査の例で50万人を対象にした400万回以上の治療で集計した結果を示しました。「どの程度の確率で起こるのか」を理解することで、安易な安全宣言よりも具体的に鍼灸治療の安全性を理解できたのではないでしょうか。

鍼灸治療は、それ自体が殆どの方にとって未知のものであるがゆえに、大きな警戒心を持ってるも多くいらっしゃいます。しかし、上手に利用することで多くの方にとって非常に大きなメリットを得られる優れた治療方法です。

このページでの「鍼灸の安全性」に関する説明により、少しでも鍼灸治療を受ける際の不安を解消できれば幸いです。